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相続実務士が対応した実例をご紹介!

相続実務士実例Report

介護した妻の寄与分は認められるか?それでも考慮したいときは分割協議で!

■夫が亡くなった

60代のYさん(女性)が相談がありました。Yさんの夫(70代)は10年前に仕事中に脳梗塞で倒れて、救急車で病院へ搬送された経験があります。職場の同僚の判断が早く、緊急手術をして一命はとりとめることができたのです。

けれども、半身不随の後遺症が残ったため、職場は退職し、自宅での介護生活となっていたのですが、定期健診の翌朝、突然、亡くなってしまったといいます。

相続の手続きが必要と、知人から紹介をされた司法書士に依頼をしたが、しっくりこないことがあるので相談したいということでした。

 

■遺言書は作れなかった

Yさんは初婚ですが、夫は再婚です。再婚後に2人の息子に恵まれました。相続人は3人と思いきや、先妻との間に2人の子どもがいるといいます。夫は再婚後は子どもたちの話をすることもなく、会ってもいないと思われますので、Yさんも然り。会ったことはなく、どこに住んでいるのかすら、わかりません。

以前より相続になったら困るだろうと思い、遺言書を作ってもらいたいと言ってはいましたが、夫は80歳になったらというような返事で、遺言書はありません。

今後の手続きのためには先妻の子どもたちにも協力をしてもらわないと進まないため、知人に司法書士を紹介してもらい、戸籍から現住所を確認することができ、相続人関係図の作成もしてもらいました。


■財産は5700万円、司法書士のアドバイス

夫の財産は自宅の土地、建物3500万円、預貯金と株が2200万円。基礎控除の6000万円以内のため、相続税はかからず、申告の必要もありません。

税務署にはなにもしなくていいのは一安心ですが、遺言書がないので、相続人全員で遺産分割協議をして財産の分け方について合意を得て分けていく必要があります。

戸籍の収集を依頼した司法書士の先生は、妻が2分の1、子どもたちが2分の1となる法定相続割合で相続することになるので、Yさんが自宅に住み続けるなら、子どもたちへ650万円を用意する必要があると言います。

 

■介護してきた妻の寄与分は?

司法書士に10年も自宅で介護してきた妻の寄与分はないのか?と聞いてみましたが、寄与分が認められることは難しいという返事。困ったYさんは別の知人から紹介されて相談にこられたのでした。

2人の子どもたちは独立して同居をしておらず、仕事もしているため、介護に協力してもらうことは難しい状況。先妻の子どもは行き来すらしていないため、さらに期待できず。結果、Yさんが仕事をやめて、ずっと自宅でひとりで介護を担当してきたのでした。Yさんの貢献により夫の生活が成り立ってきたのは明らかだと言えますので、遺産分割協議において考慮してもらいたいところ。

 

■介護における貢献は寄与分として考慮される

妻が被相続人(夫)を介護していた場合、その介護が相続財産の維持・増加に貢献したと認められる場合には、寄与分として考慮される可能性があります。ただし、妻が相続人である場合の寄与分は、一般的に認められにくい傾向にあります。以下がその理由と条件です。

 

1.法律上の役割としての貢献とみなされるケースが多い 

 配偶者の介護は、家族として当然の役割であるとされ、特別な貢献とは見なされにくい傾向があります。そのため、妻の介護については「寄与分」として認められるには一定の基準が必要です。

 

2.具体的な寄与分が認められるための条件 

介護が相続財産の維持や増加に特に寄与したと評価されるためには、次のような条件を満たす必要があります:

長期間にわたり、特別な介護やサポートを提供した。

外部の介護サービスを利用する代わりに妻が全ての負担を担ったことで、財産の減少を防いだ。

通常の家族の役割を超えた負担や犠牲を負ったと認められるケース。

 

3.寄与分が認められる可能性があるケース 

例えば、妻が仕事を辞めて夫の介護に専念し、介護費用が大幅に節約された場合など、経済的貢献が明確であれば、寄与分として認められる場合があります。また、長期間にわたる24時間介護を続けたケースでも、寄与分が考慮されやすいです。

 

4.遺産分割協議での合意の可能性 

法律上、寄与分の認定が難しい場合でも、遺産分割協議で相続人が全員合意すれば、実質的に寄与分を考慮した分割が可能です。この場合、他の相続人との話し合いによって、妻の介護の貢献を認めてもらう形で調整することが現実的な解決策となります。
介護の寄与分が認められるには相続人間での協議が重要であり、必要に応じて第三者を交えた話し合いや専門家の助言を得るとスムーズに進みやすくなります。

 

■遺産分割は法定割合でなくてもよい

遺産分割協議では、必ずしも法定相続分の割合で分ける必要がない理由はいくつかあります。以下がその主な理由です。

1.遺産分割は相続人間の合意が最優先 

遺産分割協議は相続人全員の合意をもって成立します。法定相続分は法律上の基準ですが、協議によって相続人全員が納得すれば異なる割合での分割も可能です。

 

2.相続人の事情に合わせた分割が可能 

相続人によって経済状況や生活環境が異なるため、法定相続分通りでは各相続人の事情に合わないケースもあります。例えば、同居して親の介護を行っていた相続人に多くを分けることで公平を保つといった対応もできます。

 

3.財産の種類や性質に応じた調整 

不動産や株式など、分割しにくい資産が遺産に含まれる場合、物理的に分けることが難しいため、特定の相続人に引き継ぐ一方で他の相続人には代償金(代償分割)を支払うなど、法定相続分と異なる形で調整を図ることがあります。

 

4.節税や資産保全のための工夫が可能 

法定割合に従うと相続税の負担が増える場合もあります。そのため、特定の相続人に集中させることで節税効果を狙ったり、事業承継において後継者が事業用資産を相続しやすくするための調整を行ったりするケースもあります。

 

5.遺言書がある場合 

被相続人が生前に遺言を残している場合、その内容に基づく相続分が優先されるため、必ずしも法定相続分での分割は必要ありません。遺言の内容を尊重しつつ、協議の中で各相続人が同意すれば、法定割合を超えて柔軟に分割することが可能です。

このように、遺産分割協議では相続人全員の合意が前提であり、法定割合はあくまで指針に過ぎません。状況に応じて柔軟な分割方法が選ばれるのが実務上のメリットです。

 

■先妻の子どもにも理解を得る

Yさんの2人の子どもたちはこれからのYさんの生活を考えると自宅も金融資産も一旦はYさんが相続してくれていいと言ってくれています。残るは先妻の子どもたちです。戸籍上の親子でも、40年以上も音信不通で、すでに親子の情はないかもしれません。介護にも、財産の形成にも貢献はしていませんので、その権利をYさんに譲渡してもらうように協力を依頼するところからはじめていいのではとアドバイスしました。子どもたちの反応により遺産分割の内容が変わりますが、まずは現実的な貢献度を考慮した分割案の提案をお勧めしていきます。


 

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