事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
”姪”に自宅を遺贈!小規模宅地等の特例で相続税も節税する遺言書にする
■実家を継いだ長女は独身
「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」を読んでМさん(70歳・女性)が相談に来られました。Мさんの姉(80代)は8人きょうだいの長女。父親が早く亡くなったので、母親を助けるために早くから働き、7人の弟や妹の面倒を見てきたと言います。そのためか、結婚する機会を無くし、ずっと実家で母親と暮らしてきました。実家は主要都市にあり、40坪ながら角地で最寄り駅にも近く、便利なところです。80代半ばの姉は、現在一人暮らしですが、ヘルパーさんのサポートもあるので、問題なく生活できています。Мさんは姉の遺言書について不安があるので見直したいと相談に来られました。
■母親が亡くなった時にきょうだいがまとまらずに苦労した
母親は15年前に亡くなりましたが、そのときにきょうだいでもまとまらずに苦労したと言います。母親の財産の大部分は自宅の土地、建物ですが、半分は長女名義でした。Мさんが幼いころは貸家住まいでしたが、ずっと働いてきた母親と姉がお金を貯めて、ローンを借りながら中古の一戸建てを買ったのが30年前で、不動産価格が下がった時だったようです。
母親が亡くなった時、遺言書はなかったので、きょうだい8人で遺産分割協議をしなければなりませんでした。
同居してきた長女が司法書士に依頼して、自分の名義に変えるべく、手続きをしたのですが、簡単ではなく苦労をしたといいます。同居する長女が母親の面倒を看て、自宅の購入にも貢献してきたことは明らかなのに、それでも快く協力してくれずに一言、二言あったようで、長女から聞かされていました。
■長女の相続人は10人
母親の相続から15年経ち、次は長女の相続の順番となります。長女の他のきょうだいは兄が3人、姉が3人の三男五女の八人で、Мさんは五女。そのうち、長男、次男が亡くなっていて、代襲相続人もいますので、長女が亡くなったときの相続人は10人となっています。
母親の相続で苦労をした長女は、今度こそもめごとにならないようにしたいと、名義替えの手続きをしてくれた司法書士に相談して、公正証書遺言を作成したのです。
長女といちばん親しい関係にあるのが五女のМさんで、Мさんの夫やふたりの娘とも行き来をしてきました。そうしたことから、長女はМさん家族に財産を託したいと決めてくれて公正証書遺言が出来上がったのです。
■本を読んで不安が出てきた
長女が公正証書遺言を作成してくれて、やれやれと思うところですが、その後に「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」を買って読んでみると、遺言書の内容がいいのか不安になってきたということで、相談に来られたという事情でした。
遺言書の内容を確認すると自宅はМさんが相続。金融資産はМさんと夫、二人の娘で4分の1ずつ」としてあります。また遺言執行者は姉よりも年上、80代の司法書士になっているのです。
不安項目
〇自宅はМさんが相続・・・自宅があるため小規模宅地等の特例は使えない
〇姉とМさんは12歳違いだが、どちらが先かは不明
〇Мさんの夫は80代だが、姉より先に亡くなるかもしれない
〇遺言執行者が高齢であり、Мさん家族と面識はない
以上のことから、長女よりもМさんや夫が先に亡くなった場合、亡くなった人に相続、遺贈させるとした財産は遺言書では手続きができず、あらためて相続人全員で遺産分割協議をする必要があり、長女の意思のとおりにはできない可能性が高いと言えます。
このままでは、不安要素が多いため、遺言書の作り直しを提案しました。
■予備的遺言にしておく必要がある
相続させる人が遺言者より先に亡くなった場合に備えて、次に相続する人を指定しておく遺言を「予備的遺言」といいます。長女がいちばん年上だとしても、Мさん夫婦が長女よりも先に亡くならないとも限りません。
そのため、次に相続する人や遺贈する人を決めておくとそのまま遺言書を生かして手続きができるので不安がありません。
■遺言執行者は相続人や遺贈を受ける人でできる
遺言執行者の要件は特に決まっておらず、弁護士、司法書士などの資格者でなくても誰でもなれるのです。相続人や遺贈を受ける人を遺言執行者に決めておくことでも問題はありません。専門家に依頼すれば報酬を払う必要がありますが、相続人や遺贈を受ける本人であればそうした報酬はなしに手続きできるため、親族間ではそのようにされる場合があります。
今回、長女が遺言書を作り直す際には、Мさんや親族を遺言執行者にすることをお勧めします。
■どうせなら、相続税も節税できた方が安心
現在の姉の遺言書では自宅はМさんが相続することになっています。Мさんは夫名義の家に住んでいますので、居住用の小規模宅地等の特例は適用できません。当然、Мさんの夫も適用外です。またМさんの上の娘も夫婦共有の家があり、適用できません。けれどもМさんの下の娘は現在、独身で賃貸アパートにひとり暮らしをしています。
小規模宅地等の特例を適用するという場合の選択肢はМさんの下の娘といえます。姉からすると姪のとなり3親等ですが、自宅の遺贈を受けると小規模宅地等の特例が適用できて、相続税が減らせるのです。
姉の財産は自宅と預金で約1億円ありますので、少しでも節税したいところ。特例が適用できれば相続税は4分の1に減らせます。
Мさんにその説明をすると、ぜひそうしたいという返答。姉や家族も異論はないはずで、むしろ、最初の遺言書で司法書士からそうした話をしてもらいたかったと言っておられました。
■遺言書は作り直したものが有効になる
遺言書は作成した年月日の新しいものが有効になります。Мさんの姉も再度、印鑑証明書を取得し、戸籍なども揃え、Мさん家族も住民票などを用意する必要はありますが、作り直すことによって相続税を節税し、遺産分割協議などをしなくても使える有言所になるため、すぐに作り直しを決断されました。
なお、きょうだいしまいには遺留分の請求権がないため、姉の意思が実現します。
■小規模宅地等の特例を受けられる人の要件とは
小規模宅地等の特例は、「被相続人の親族」が相続または遺贈により取得したものであればてきようできます。親族は、一般的には血統・婚姻によってつながる人々をいいますが、法律上は6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族をいいます。
配偶者、子どものいないМさんの姉からみて、Мさんの娘は姪で3親等になり、要件の範囲内となります。
◇法定相続人の範囲
相続人 「血族相続人」 直系卑属(子や孫など)・・・第1順位
直系尊属(父や母など)・・・第2順位
傍系の血族(兄弟姉妹・甥姪など)・・・第3順位
「配偶相続人」 配偶相続人。
■6親等内の血族の親等
自分を中心として、以下の表のに該当する人が6親等内の血族となります。
6親等内の血族の親等早見表 |
|
1親等 |
父母・子供 |
2親等 |
祖父母・孫・兄弟姉妹 |
3親等 |
曽祖父母(そうそふぼ)・曽孫(ひまご)・伯叔父母(おじおば)・甥姪 |
4親等 |
高祖父母(こうそふぼ)・玄孫(やしゃご)・祖父母の兄弟姉妹・従兄弟姉妹(いとこ)・甥姪の子 |
5親等 |
高祖父母の父母・来孫(らいそん)・高祖父母の兄弟姉妹・祖父母の甥姪・従兄弟姉妹の子・甥姪の孫 |
6親等 |
高祖父母の祖父母・昆孫(こんそん)・高祖父母の父母の兄弟姉妹・高祖父母の兄弟姉妹の子・祖父母の甥姪の子…(省略) |
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