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相続実務士が対応した実例をご紹介!
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固定資産税の精算金にも譲渡税!税務署は見逃さない!賢く節税はできる?
■自宅売却の譲渡税申告。税務署からの呼び出し。
父親が自宅を売却されたAさん(50代・男性)から連絡がありました。Aさん家族は二世帯住宅で父親と同居をしていました。よってAさんは売却時も高齢の父親の代理をするなど、実務的なことは全部担当しておられます。
父親は貸店舗も保有しており、20年以上前から賃貸事業の確定申告をしているので、毎年の如く、いつもの税理士の先生に自宅売却の譲渡税の申告もお願いしたと言います。
申告、納税が終わって、やれやれと思っていたところに、税理士さんから連絡があり、確定申告の内容について確認したいことがあるので、税務署に出向くようにと。そこでAさんも税理士と一緒に税務署に行ってきたと言います。
■税務署からの確認事項 「居住用財産の3,000万円特別控除の特例」
税務署の確認事項は2点だといいます。
(1)居住の3000万円控除の特例の適用について
(2)固定資産税の残期間分の精算について でした。
(1)については売却する直前まで住んでいたことの証明がひつよう。
600坪という広い敷地に二世帯が2棟建っていましたが、2棟ともる状況だしたが、直前まで住んでいたかの確認でした。公共料金を支払っていたかなどの確認をされましたが、クリアできたといいます。
◇「居住用財産の3,000万円特別控除の特例」は、マイホーム(居住用財産)を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。これにより、譲渡所得税の負担を大幅に軽減できます。(国税庁)
📝 適用要件
- 居住用財産の譲渡:
- 現在居住している家屋
- 以前に居住していた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却)
- 上記家屋とともに売却する敷地や借地権
- 家屋を取り壊した場合、その敷地で一定の要件を満たすもの(国税庁)
- 譲渡先の制限:
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売却していないこと(国税庁)
- 他の特例との併用制限:
- 売却年の前年および前々年に以下の特例を受けていないこと:
- 居住用財産の3,000万円特別控除
- マイホームの買換えや交換の特例
- 譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
- 売却年の前年および前々年に以下の特例を受けていないこと:
- その他の要件:
- 売却した家屋が、特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋でないこと
- 別荘など、主に趣味や保養のために所有する家屋でないこと
🧾 手続きと必要書類
- 確定申告:売却した翌年の2月16日から3月15日までに、所轄の税務署に確定申告を行う必要があります。
- 必要書類:
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書の写し
- 登記事項証明書
- 住民票の写し(居住の事実を証明するため)
- その他、譲渡に関する資料
- 詳細な情報や最新の法令については、国税庁の公式サイトをご参照ください。(国税庁)
■税務署からの確認事項 「固定資産税の残期間分の精算」
2つめは「固定資産税の残期間分の精算」についてでした。
自宅の残金決済は10月末。固定資産税は4~3月分を1月1日の所有者が支払うことになっています。よって10月末に売却しても、11月から3月までの5ヶ月分の固定資産税はAさんの父親が支払う必要があります。
この場合、売買契約書に固定資産税の精算についての条文もあることが多く、たいていは残金決済時に精算を行います。
Aさんの場合も、11月から3月までの固定資産税分を計算して、売買代金とは別に、買主からAさんの父親に払ってもらいました。その精算書も作成しています。
■固定資産税の精算金は譲渡所得になる?
税務署は固定資産税の精算金の申告が漏れているので、修正申告をするようにという指摘をしてきたのです。
その報告を受けた時、「固定資産税の預り金で、収入ではないので、修正申告は理不尽で違和感がある」とAさんにご連絡しました。
すると、同席した税理士も、税務署を出てから、「普通はこんな指摘はないです。多分額が大きいからですかね?固定資産税については経費計上をしている場合、戻してもらったら収入とする必要があります。事業に関係のない何ら経費計上されていない固定資産税は単なる一般の支払いですし、収入は単なる戻りです。税務署にその旨を伝えようと思います。」
■税理士も勘違いする ほどなく訂正
ところが、ほどなく税理士から、訂正のメールがきました。
「私が勘違いをしておりました。固定資産税は1月1日時点における不動産の所有者に対して賦課されるものです。つまり年の途中で所有者が移転したとしても買主が負担するものではなく未経過固定資産税に相当するものを支払ったとしてもそれは売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税について、買主がこれを負担することなくその不動産を所有する期間があるという状況を調整するために行われるものと言えます。であるとすれば、この未経過固定資産税に相当する額は、実質的には不動産の取得対価の一部と解されます。調査官の指摘は妥当であると考えます。間違った見解を述べて申し訳ありません。」
■固定資産税の精算金は、やはり、譲渡所得になる!
【結論】 固定資産税の精算金は「譲渡所得」に含まれます。
よって、譲渡所得として課税されます(=譲渡税の対象になります)。
【理由・根拠】土地などの不動産を売却する際、売主と買主の間で固定資産税を「引渡日を基準に按分」して、日割りで精算するのが一般的です。
- この精算金は形式的には「固定資産税の分担金」のように見えますが、
- 実質的には「譲渡対価の一部」とみなされます。
そのため、税務上は「譲渡代金に含まれる金額」として扱われ、譲渡所得の金額に加算されるのが正しい処理です。
【雑収入ではない理由】
- 「雑収入」としてしまうと、譲渡所得ではなく総合課税の対象になってしまい、税率や損益通算の取扱いが変わります。
- しかし、これは「売却にともなって生じた受取金」なので、売却代金の一部として一体で計算するのが適正です。
参考:国税庁の見解(要旨) 固定資産税等の精算金は、実質的には譲渡対価の一部であり、譲渡所得の計算に含める。
補足 一方で、売主が納めた固定資産税は、譲渡所得の「取得費」や「譲渡費用」にはなりません。売却の年の「必要経費(経常的な経費)」として所得税の他の区分で処理される場合がありますが、精算金との直接的な相殺はされません。
■売主が持ち出しにならない方法はあるか?
固定資産税の「精算金」で売主の持ち出しを防ぐ=「買主から受け取る精算金」が「課税所得」に含まれて税負担が増える一方、「売主が払った税金」は譲渡費用にもできないため、損になる構造を回避したい。
🔧【対応策①:売買契約書に「精算金なし」と明記】
あらかじめ固定資産税の精算をしない旨を契約に明記する。
例:「本件不動産に係る固定資産税・都市計画税は、売主が全額負担するものとし、精算は行わない。」
🔹メリット
- 買主から受け取る金銭がないため、課税対象が増えない(=税負担増を防げる)。
- 精算金をめぐる処理や申告の手間も減る。
🔹デメリット
- 年度途中の引渡しでは「実際に使ってない期間分の税」も売主が負担することになり、損した気分になりがち。
🔧【対応策②:売買価格に精算金相当分を含める(明示しない)】
固定資産税の精算金を別途の金銭ではなく売買価格に含めて一括表示する。買主と合意の上で、精算金の支払いそのものを省略し、実質的には価格に反映させておく。
例:「固定資産税相当額は売買代金に含めるものとし、別途精算しない。」
🔹メリット
- 課税対象はもともと売買代金に含まれているため、税務上の問題が生じない。
- 表面上、売主が固定資産税を受け取っていないので、「課税される金額が増える」ことを回避。
🔹注意点
- 不動産業者・司法書士などに契約内容の整合性を確認してもらうこと。
🔧【対応策③:課税されることを前提に価格調整をしておく】
精算金が課税されることを見越し、精算金相当額に対してかかる譲渡税額を加味して売買価格を上乗せする。
例:精算金が10万円 → その20%=約2万円が譲渡税としてかかるなら、売買価格を2万円上乗せする。
🔹メリット
- 精算金による実質的な持ち出しを防げる。
🔹デメリット
- 価格交渉が複雑になる。特に個人間取引では説明が必要。
【まとめ】
方法 |
精算金の受取 |
税務処理 |
売主の持ち出しリスク |
① 精算しない |
なし |
なし |
◯(完全回避) |
② 売買代金に含める |
表示上なし |
売買代金の一部として課税 |
◯(回避) |
③ 精算金分を価格に転嫁 |
あり |
譲渡所得に加算 |
△(補填で対処) |
【おすすめ】 実務上は 「②売買代金に含める」方式が最も自然で、買主側とのトラブルも少なく、税務的にも問題がありません。不動産会社に「精算金を別立てにせず、売買代金に含めて」と依頼すれば対応可能です。
■今後、固定資産税の精算は要注意
あらためて確認してみると、税理士さんのメールのとおりで、固定資産税の精算金は税務署は売買対価として課税するとのことでした、、。
売買契約上、固定資産課税の精算は定番ですので、たいていが精算金を受け取っていますが、課税される認識がなく、ほとんどの方は申告しておらずでスルーされているのが現状かと思われます。税理士もそうした認識ですので、グレーゾーンかもしれません、、。
今回、金額が大きい、早めの申告だったなどで目立ったのかもしれませんが、受け取った額に課税はされるが、支払った金額を原価参入できないという理不尽さが残ります。今後はどういう精算の方法にするかよく検討して、あとから追徴されない工夫が必要だと痛感した次第です。
最初のご相談は無料です。
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