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相続実務士が対応した実例をご紹介!

相続実務士実例Report

遺留分算定は売却して「時価」を決めることで解決!査定だと逆効果。

 

◆長女家族が両親と同居してきた 

Тさん(60代女性)は3姉妹の長女。婿養子の条件で結婚した夫と、両親とで、ずっと実家住まいをしてきました。孫にも恵まれて、3世代、7人でにぎやかに暮らしてきたといいます。Тさんの結婚当初は、妹たち二人とも実家で生活していましたが、ほどなく二人とも結婚して家を離れていきました。

妹たちはふたりとも電車で30分程度のところに嫁ぎましたので、何かにつけ実家に顔を出していました。けれども母親が先に亡くなり、父親だけになったころからは、厳格な父親を煙たく思っていたのか、次第に来る頻度が減り、父親の老後の世話はТさんが一手に引き受ける形となりました。病院や買い物は夫や子供たちの協力も得て、ほとんどが長女家族で担当してきたのです。


◆土地は100坪。建売住宅の3軒分の広さがある

最寄駅から徒歩15分の住宅地にある実家ですが、土地は角地で100坪あり、周辺ではひときわ目立つ家となっています。隣地も以前はТさんの実家以上に広いお宅だったのですが、相続税の支払いのために売却されたようで、現在では25坪~30坪程度の建売住宅となっています。

こうした状況で、回りと比べて3軒分ほどの土地があるうえに、祖父が建てていた木造2階建ての建物が古くなったため、父親とТさんの夫が鉄筋コンクリート3階建ての建物に建て替えていますので、なおさら存在感を放っているというわけです。

実家の土地はТさんの祖父が戦後、購入し、苦労して守ってきたと聞いています。父親も若いころから働いて家計を支えてきたことから、家は守ってもらいたいとことあるごとに言われていました。 

◆公正証書遺言で不動産は同居する長女夫婦に相続させるとした

父親が祖父から相続した当時は、家督相続の風習が残っている時代でしたので、同居する長男である父親が当然のごとく相続できたのでした。

家を離れた弟や妹からはハンコ代を払って相続手続きに協力してもらえたのですが、それでも多少の不服は父親の耳に入ったようで、苦労もあったようです。

そうした思いをさせたくないことや家は同居する長女夫婦が相続し、守ってもらいたいという思いがあり、公正証書遺言を作成したいということで、当社で証人となり、遺言書作りのサポートをさせて頂きました。

それから10年が経ち、Тさんの父親は90代で亡くなったのですが、公正証書遺言によってスムーズな手続きができ、小規模宅地等の特例により、相続税もかかりませんでした。


◆相続税はかからなかったが、遺留分請求が起こされた

父親の相続手続きには公正証書遺言があり、小規模宅地等の特例を適用することができましたので、想定したとおりに相続税もかからず、Тさん夫婦はひとまず胸をなでおろしておられました。

ところが、1周忌がすぎたあと、案の定、妹たちから遺留分請求の通知が届いたのでどううればいいかというご相談で来られたのです。

公正証書遺言は、父親の強い意思で、「自宅の土地、建物を含めた財産の全部を長女と養子の長女の夫に相続させる。」とされていました。父親の遺言書には付言事項もあり、「長年同居し、面倒を看てもらった長女夫婦に感謝していること、先代が買って苦労して守ってきた土地は売ることなく二人で維持してもらいたい。次女、三女は父親の意思を理解して遺留分は請求しないように」と書かれていました。

けれどもその気持ちは通じなかったようで、弁護士を通じて、遺留分侵害額請求通知が届いたということです。

 

◆土地が財産の大部分 預金は8分の1しかない 遺留分はどうする?

実は遺言書を作成した当時より、遺留分請求が危惧されることはお知らせしてありました。父親の財産の大部分が自宅の土地、建物で評価は7000万円、預金と株は1000万円ほど。相続人4人ですので、法定割合は4分の1。遺言書がある場合は法定割合の半分が遺留分となりますので、8分の1の1000万円が遺留分となります。

預金は1000万円残っていましたが、葬儀や相続税の申告、不動産の名義替えなどで半分程度しか残っていないといいます。

父親は地方公務員、母親は専業主婦でしたので、両親の面倒や子育てにお金がかかり、まとまった預金を残すことはできなかったようです。どうしても家が大きな財産となるため、遺留分請求があることを想定して、対策をすることを何度もお勧めしていましたが、父親は建て替えや一部売却の提案には首を縦に振らず、当初のまま相続を迎えたのです。

 

◆遺留分侵害額の算定は不動産の「時価」評価を基準とする

相続税の申告は土地は路線価で評価をしますので、土地6600万円、建物400万円が評価でした。ところが妹たちの弁護士は、不動産の価格査定書を送付してきて、路線価の1.5倍、9900万円が流通価格だと主張してきました。

父親の財産には遺留分に足りる額はないため、自分たちの預金を払い出すことになります。しかし、Тさんの夫は自営業で家のローンがまだ残っているくらいでまとまった預金はありません。Тさんも子育て中は専業主婦、しばらくパートに出たりしていましたが、すでにリタイヤいて収入はありません。よって、遺留分請求には応えないといけないが、払える状況ではないため、致し方なく土地の一部を売却して捻出しようと考えたということです。

 

◆土地の評価は【1】時価 【2】公示価格 【3】相続税評価額 【4】固定資産税評価額の4つ

土地の評価の仕方は主に4つあります。

【1】「時価」は実際に売買された価格のことです。

【2】「公示価格」は土地取引の目安として使われている価格で、国土交通省が毎年3月中旬から下旬に公表しています。都市計画区域内、全国約2万6,000カ所の標準地の価格が公開されています。1カ所につき2人以上の不動産鑑定士が鑑定した結果を、国土交通省が審査した上で公にしています。

【3】「相続税評価」は、路線価で計算され、相続税路線価とは、相続税・贈与税の算定のために、国税庁が発表している毎年1月1日時点の同一道路上の標準価格(m²あたりの価格)となります。この路線価は、公示価格の80%程度となるように設定されていて、毎年7月1日に発表されます。

【4】「固定資産税評価が」は、各市町村(東京23区の場合は東京都)が発表している固定資産税の課税のための標準価格です。公示価格の70%程度となるように設定されています。なお、固定資産税は原則として3年に一度評価替えが行われます。固定資産税評価額は、登記にあたって課税される「登録免許税」や不動産を取得した場合に課税される「不動産取得税」の税額算出のもとにもなっています。

 

◆一部を売却するだけなら遺留分は高くなる、いつまでも決まらない

Тさん夫婦は土地の一部を売却、いったん仮住まいをしますが、一部、売れたお金で遺留分を支払い、建て替え費用も捻出したいということで、不動産会社と相談したところ、相場よりも高く売りましょうとアドバイスされました。角地を残して35坪を売ると想定して残る65坪が角地となります。

35坪が高く売れると、残りの角地はその1.1倍程度の坪単価がつくと想定されますので、遺留分は妹たちの弁護士が査定した金額よりは1.1倍以上も高くなるという理屈です。

建物を解体して、土地を売却、仮住まいをして、遺留分を払い、残りの土地に家を建て直して住み続けるというストーリーを描きたいところですが、土地の一部売却では遺留分が高くなるし、いつまでも決まらないとなるのです。

◆全部売却して、時価が決まれば遺留分侵害額も決まる

こうした理由から、遺留分算定の「時価」を確定するため、土地は一部売却ではなく、いったん全部を売却することをアドバイスしました。

調停が始まると早くても1年、価格交渉の折り合いがつかないと2年、3年、それ以上となり、時間と費用がかかります。その間の精神的な負担だけでなく、「時価」も下がる危険性もあり、時間をかけるといい結論が得られる確証はないため、早めに出せる結論を選ぶことが大事になります。それには土地を全部、売却してしまうことで「時価」が確定されますので、必要以上の時間と費用を掛けることなく遺留分の侵害額が確定するということです。

土地を売却するための仮住まい、自宅解体は一部でも、全部でも同じく必要になるため、それであれば、一部を売るよりも全部を売却するメリットを優先するに提案しました。

全部の売却のデメリットとしては土地価格が下がる、譲渡税がかかるなどがありますが、資金的な計算をしてみると一部の売却だけでは足りないこともあり、全部の売却の方向で進めていこうということになりそうです。

父親の意思となる「家を残してほしい」ということが実現しませんが、遺留分対策ができていなかったことから、Тさん夫婦は致し方ないとこれからできることに取り組もうとされています。

◆相続実務士のアドバイス

できる対策
土地を全部売却して売買価格となる「時価」を確定させる

注意ポイント
広い自宅であれば土地の一部を売却して退所したいところですが、それでは全体の「時価」は売買価格を基準として角地評価で高くなり、なかなか決まらない状況になります。「時価」を確定させるには土地全部を売却する必要があります。

 

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