事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
養子縁組&同居で小規模宅地等の特例が使えた!おひとり様の決断。
■養親が亡くなり、相続手続きが必要に
相談に来られたAさん(50代女性)は、法的な親子関係のないBさん(80代女性)と養子縁組をし、同居をしてBさんの老後を支えてこられたといいます。日常的な生活面のサポートは当然で、病院の付き添いや看取りまで、ずっとそばで支えてこられたのです。
Bさんが三カ月前に亡くなって葬儀、納骨などの手配も、Bさんの希望の通りにAさんが引き受けて行い、ようやくひと段落したといいます。これから相続の手続きをどうすればいいかというのがAさんのご相談でした。
■養子縁組は「家族として託す」法的手段
Aさんのお話では、Bさんとは、ある会のイベントを通じて知り合い、何度かお会いするうちに信頼関係ができ、徐々に個人的なことを相談されるようになったと言います。Bさんは当時、80歳になられたばかりでしたが、すでに夫を亡くして子どもにも恵まれなかったので一人暮らしをされていました。頼るきょうだいや親族もないため、信頼できるAさんの存在は心の拠り所となっていったようです。
Bさんには夫から相続した自宅マンションや賃貸マンション、預金などがあり、その財産を託す方法も模索されていたようです。
Bさんは遺言書を考えていましたが、「それでも不安が残る。確実にAさんに財産を渡したい」との思いから、法的に親子関係となる「養子」になってもらえないかという申し出がBさんからあったといいます。
■養子縁組しても姓は変わらない
Aさんは結婚して夫の戸籍に入っていて、夫の姓を名乗っています。2人の子どもにも恵まれて生活しています。そうした場合、Bさんの希望を叶えてあげるために養子縁組をした場合、夫や子供に影響があるのかが不安になり、調べてみたと言います。
けれども、結婚して夫の姓を名乗っている女性が、養子縁組した場合、養親の姓を名乗る必要はなく、姓は変えなくてもいいことがわかりました。
民法では、養子縁組をした場合、原則として「養親の氏(姓)」を称することになります(民法810条)。しかし、女性がすでに婚姻によって夫の姓になっている場合は、婚姻中であれば婚姻による姓が優先され、養子縁組による氏の変更は生じません。
つまり、
- 女性が結婚して夫の姓を名乗っている状態で、
- その後、別の人(たとえば親族や血縁でない人)の養子となっても、
- 姓は婚姻による姓(夫の姓)のまま維持されます。
そして、Bさんとの関係はAさんだけなので、夫や子供は養子縁組する必要がないのかも確認したと言います。結果、養子縁組は個人単位の法律行為であり、配偶者やその子ども同時に養子になる必要はありません。
ただし、次の点には注意が必要です:
- 未成年者が養子になる場合は、配偶者の同意が必要ですが、成人女性には該当しません。
- 夫婦のどちらか一方が養子縁組しても、もう一方には相続権や法律上の関係は生じません。
たとえば:
- AさんがBさん(高齢の方など)と養子縁組した場合、AさんはBさんの法定相続人になります。
- しかし、Aさんの夫は養子縁組をしていないので、Bさんとは何の法的関係もなく、相続権もありません。
こうしたことを確認して、Aさんの夫や子供の理解のもと、Bさんと養子縁組をして、AさんとBさんは、戸籍上の「親子」となりました。この養子縁組が、後の相続手続きと節税の大きなポイントとなります。
■基礎控除3600万円を超える財産
Bさんの財産を評価すると、自宅と賃貸マンションで8000万円、預金が1500万円、葬儀費用が200万円かかりましたので、差し引き9300万円の評価としなります。
相続人が一人なので基礎控除は3600万円、相続税は1010万円となります。預金でなんとか払えるとはいえ、相続税の負担はなるべく減らしたいところです。そこで次に確認したのが養子縁組しただけでなく、「同居」したいたかということです。
Aさんに確認すると、養子縁組をする頃から、高齢のBさんは一人で生活するのは大変になり、Aさんは家族の理解のもと、住民票も移してBさんのマンションで同居してきたと言います。
同居の実態があり、住民票も移しているとなれば、問題なく、居住用の小規模宅地等の特例が使えると判断しました。よって自宅マンションの土地評価は80%減できます。合わせて賃貸しているマンションにも50%減の評価が適用できると判断できました。これにより、土地評価が4500万円下がり、相続税は130万円。特例を適用することで相続税は87%減額できます。
■小規模宅地等の特例が適用できる条件とは?
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった方が居住していた宅地について、一定の条件を満たす相続人が引き継ぐ場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。具体的には、被相続人の居住用宅地について、最大330㎡まで評価額を80%引き下げることが可能です。
この特例を受けるにはいくつかの要件がありますが、特に重要なのが次の2つです。
- 同居親族であること(相続開始直前に同居していた)
- 相続開始から相続税の申告期限(10か月)までその宅地を所有し続けていること
Aさんは、Bさんと同居しており、法的には養子でもあるため、これらの要件を満たしていました。そのため、自宅マンションの土地評価を大幅に減額することができ、相続税の負担を大きく軽減することができました。
「養子縁組」だけでは、小規模宅地等の特例を適用することはできないため、Aさんの決断が功を奏したと言えます。
■申告期限までの自宅売却はNG──特例が使えなくなる落とし穴
次に重要なのが、「相続税の申告期限まで自宅を売却してはいけない」という点です。小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告期限(通常は相続開始から10か月以内)まで、その土地を所有している必要があります。
仮に、相続発生後すぐに自宅を売却してしまった場合、要件を満たさなくなり、この特例は適用されなくなります。つまり、土地の評価額がそのまま課税対象となり、高額な相続税が課せられる可能性があるのです。
そのため、Aさんに対し、次のような方針でサポートを行いました。
- 相続税の申告を先に完了させる(特例適用を含めた申告)
- 申告期限を過ぎてから自宅売却を進める
こうすることで、特例を活かしたまま不動産を現金化することができます。最初に売却を急がず、制度を理解した上で手続きを進めることが重要なのです。
■まとめ:養子縁組&同居のメリットは大きい
- 養子縁組により法定相続人となることで、相続人としての権利を確保できる。
- 同居していたことにより、小規模宅地等の特例が適用され、大幅な相続税軽減が実現できた。
- 特例を活かすには、相続税の申告期限まで自宅を売却しないことが条件となる。
- 法的手続きと同時に、「誰に何を残すか」という想いの整理も大切。
- 制度は複雑なため、専門家に早めに相談することで損を防ぎ、安心につながる。
Bさんの思いを実現しながら、思い残すことなく旅立たれたBさんの心は安心で満たされていたと思うと、Bさんの老後を支えたAさんは見事だったと言えます。そのうえでこれからの生活にBさんの財産を生かして頂ければと思うところです。
他人でもこうした出会いで養子縁組&同居により、より信頼関係が築けるのだと実感した事例でした。それぞれの想いと財産の両方を大切にするサポートを今後も提供してまいります。
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