夢相続コラム

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【相続相談事例】 父の葬儀直後の兄の「一言」で兄妹冷戦15年

2022/01/20


【相続相談事例】 父の葬儀直後の兄の「一言」で兄妹冷戦15年

相続に暗黙の了解などない

今回は葬儀の時の一言が原因で相続争いに発展した不幸な兄妹のエピソードを紹介しましょう。

Sさん(70代・男性)は15年前に父親を亡くしました。両親とSさん家族が同居しており、妹は嫁いで家を離れています。地方都市ということもあり、昔ながらの家督相続の流れが残る地域でしたので、長男が親と同居して、老後の面倒も看るので、家やお墓を継ぐのも長男の役目というのが当たり前の感覚でした。
そうした背景があり、母親もSさんも、父親の財産は母親の分も長男のSさんが引き受けることでよいという考えでした。当然、妹も父親の財産は長男が相続するという暗黙の了解があると思ってきましたので、深く考えることもなく、Sさんは葬儀のあとに妹に切り出したのでした。

「お前もわかっているだろ。この相続放棄の書類にハンコを押してくれ」

ところが、妹からは「納得できない」「協力できない」と言う返事が返ってきました。まったく想定外のことで、何が気に入らないのかも分からず、Sさんからすれば「なんで言うことが聞けないのか?」と責める気持ちしか湧いてきません。

Sさんが葬儀の後、すぐに相続の話を切り出したのは、Sさんなりの理由もありました。
父親は遺言書を残しませんでしたので、父親の財産を分けるには話し合いをして遺産分割協議書を作成する必要があります。妹はそれほど離れたところに住んでいるわけではないのですが、それでも頻繁に行き来するわけにもいなかいと思い、手間をかけないために早めに相続の手続きを進めたいと思い、葬儀の後の時間に済ませておこうと考えたのです。

しかし妹とはこれがきっかけで完全に決裂してしまいました。

そして流れた沈黙の15年

妹はやがて自分の権利を第三者に売却するなどという手紙を送ってきました。Sさんに対するいやがらせだと思えますが、何をするかわからない不気味さが増し、落ち着いて生活できない心境になりました。
Sさんと母親は妹の態度に激怒し、それでもなんとか説得しようと試みましたが、連絡を取っても返事はなしのつぶて。仕方なく、自宅の土地、建物は法定割合で登記をしたのです。これは遺産分割が決まったからではなく、緊急措置として、保全しておくためのものでした。

父親の財産は自宅の他に預金が数千万円ありましたが、それは母親が生前に引き出していて、自分の口座で管理をしていましたので、生活費には困ることはありませんでした。しかし、自宅が共有名義のままでは、個々の財産にできずに価値が半減してしまいます。話し合いのつかない妹の名義があることで何もできないまま15年が過ぎてしまったのです。

突然の妹からの連絡

今年の春、思いがけず妹から手紙が来たとSさんが相談に来られました。「自分が病気になり、母親よりも早く逝くかもしれない。ついては父親の遺産分割について子供に迷惑をかけないように済ませてしまいたい」という趣旨のことが書かれていました。

これは解決するチャンスなので、この機に遺産分割協議をして、父親の財産を分けて手続きを済ませるようアドバイスしました。しかし、Sさんは感情的なしこりがあるため、直に話をするとケンカになるので、私にすべてを任せたいとおっしゃられました。私はこの委託を受けて手続きをすることになりました。

Sさんの妹さんに連絡を取るといろいろと本音の話をして下さいました。
「自分は実家から離れて、自分の家もあり、実家の不動産はいらない。兄が相続してくれたらよいと思っていたが、葬儀のときに何の説明もなしにいきなり“放棄の書類にハンコを押せ”と言われて、その横柄な態度が許せなくなった」と言うのです。

妹さんは他市に住んでいて、実家からは離れているので、母親の介護などもできないと思っていましたので、兄が多めに相続することに異論はありませんでした。ところが兄が相続放棄は当然という態度で、財産のことや今後のことなど話し合いもしようとせず、頭ごなしに進めようとしたことが、許せなかったそうです。

この15年はそのSさんの態度が許せずに遠ざかっていたと言い、いまでもその気持ちが整理できていません。そこでご自身の病気が明らかになったことをきっかけに、不動産の法定割合分を現金で払ってもらいたいということが妹さんのご希望でした。

正式な遺産分割協議で名義をはずせる

妹さんの意思が確認できましたので、さっそく手続きに入りました。今回のようにすでに法定割合で登記を済ませている物件を見直すためには、どうすればいいのでしょうか。自宅の不動産の名義は現在、兄と妹の共有になっています。この際、一見簡単なのは、妹の持ち分を兄が金銭で購入することのように思えます。

しかしそれでは親族間の取引であっても妹には不動産の譲渡所得税がかかってしまいます。また登記をやり直すだけで兄が妹に代償金を支払えば、それは贈与税の対象となります。

この場合、最も合理的なやり方は、改めて遺産分割協議を行い、登記をやり直すことです。こうすることで相続手続きをやり直すことができるのです。遺産分割の請求権には時効はありません。たとえ15年たっても遺産分割協議は可能なのです。不動産が法定割合で登記をされていても、妹が納得した登記でないため、今回、正式に遺産分割協議書を作って登記をやり直すことになりました。

遺産分割協議に応じるという本音を聞き出すことができましたので、母親が預かっていた父親の預金から支払うようにし、自宅はSさん名義とします。二次相続を考えて、母親が受け取る財産はないとする遺産分割としました。

兄が教訓とすべきこと

母親は90代。父親の相続手続きができていないことをずっと悔やんでいましたので、ようやくほっとできたようです。母親の財産はわずかな預金だけですので、この機会に妹へ生前贈与し、残りはすべてSさんに相続させるという内容の遺言書も作成しました。妹は生前贈与を受けたことで、母親の財産については遺留分を請求しない旨の覚書にもサインしました。これで二次相続の不安はなくなりました。

Sさんは「妹は相続放棄して当たり前」という思い込みで行動をしてしまいましたが、それは間違いです。遺言書で指定されていない相続人の権利は法定割合を基準として同等にあります。それなのに葬儀のあとにいきなり書類を出して「相続放棄の書類にハンコを押せ!」と高圧的な態度で押し切ろうとすると、妹さんが反発したくなる気持ちはよくわかります。

円満な相続のためには、家族に下記のようなやり取りが必要なのです。
・父親の遺言書の有無を知らせる
・父親の財産を整理して、書類で提示する
・相続税がかかるか、試算を書類にする
・遺産分割の案を提示して、個々の希望とすり合わせる

このようなポイントを押さえ、被相続人の意思を尊重し、相続人個々の感情や経済的な事情を理解しながら、バランスよく手続きをすることが肝心です。
できればそのトータル的なサポートができる専門家を選んで一緒に進めることを考えていただきたい
このSさんの例は、最初のアプローチを間違ったことで家族に大きな亀裂を生んでしまいました。

妹さんは「15年も意地を張ってきたが、間に入ってもらって、解決できてよかった。これで子供に迷惑をかけずに済むので、ほんとうによかった」とおっしゃっておられました。しかしこれで家族の関係が戻るかというと、そうは簡単ではありません。15年もかかった相続の手続きが完了した後も家族には大きな溝が残ったままです。

円満な相続のためには、その手続きに入る前に、ぜひ専門家のアドバイスに耳を傾けてほしいと思います。

弊社では様々なプランをご用意しております。
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